このところ、100年に1度といわれている金融危機に見舞われている。こうしたなか、財産を土地で残すにしろ、有価証券で残すにしろ、不安は尽きないものだ。それならば、いっそのこと「金地金」で残すのも一つの方法では・・・と、そんな考えを持つ人もいるのではないか。
さて、こうした納税者に関する資産情報については、税務当局では国税総合管理(KSK)システムにビックリするほど蓄積している。では、税務当局は、こうした資産運用・資産購入・資産海外送金などの資料をどうやってから収集し、どういった形で相続税の調査選定になで結びつけるのか紹介する。
なかでも今回は、オフショア金融センター、つまり「バハマ・ケイマン・マン島」などいわゆるタックス・ヘブン(税金天国)にエスケープされた相続財産はどうなるのか、について考えてみる。
まさかそういった「税金天国」から、わが国税務当局に資料せんが送られることは100%ないので、当局が知り得るとすれば、海外送金資料ということになる。
それとキャプティブなどで送金された相手法人の確認。この場合、相手は「保険会社」になるが、保険会社が作り易く、現地の人間が保険会社をいくつも一人で切り回していることは、当局にも周知の事実である。
そういった会社の実態を調査するのである。当然相続財産の一部であると考えているのだ。
また、出張などで頻繁に海外に出かけることが多かった人には、貴金属や宝石の持ち出し疑惑がかかり、この場合も調査選定にされ易いといえるだろう。ただし、タックス・ヘブンを始め、海外への資産持ち出し(エスケープ)にはリスクが伴うと同時に、本人の死後、そういった資産が行方不明になったり、完全に忘却されたりする可能性もあるので、当局からの資料提供は、相続人に感謝されるケースもある。
2008年12月19日金曜日
Vol.19 海外資産はこうして把握する
2008年11月21日金曜日
Vol.18 子孫に美田を残すと…
今回からは数回に分けて、「資産税」部門に集積されている被相続人の生前資料からどのように相続調査の選定が行われるか説明する。
生前、被相続人が、法人のオーナーまたは個人の事業者だった時代に高級品を購入していれば、そのデータが税務当局にはある。そのため、別荘や絵画、ヨットやクルーザー、高級外車、リゾートクラブやゴルフ会員権といった購入事績があり、法人税や個人所得税の調査が不十分のまま死去してしまったら、やはりこの「高級品」に眼がいくことになる。
もとより、相続税調査は、自然人つまり人間(日本国民)が最後に受認しなければならない義務といえる。しかし、本人は亡くなっているため、相続人がかわりに調査を受けることになる。税務当局側の考え方としては、生前の法人なり個人事業からの税金を100%捕捉していなくとも、相続時つじつまが合えばOKという考え方もできる。ただし、マンパワーに限りもあるので、十分吟味し、全体の30%程度にしか調査が行われない。
そのなかで、事例にあげたような、不審な高級品(物件)購入資料が見つかれば、当局としては、相続税の申告財産リストにあるかないかは別として、いったんは調査選定したくなるのが人情というものだ。
当然、相続税申告書に、その高級品が記載されていなければ、換金資産の行方を追う。しかしかなが、税務当局が、高級品(物件)の購入自体に“ブルブル”と震えるのは、やはり嫉妬心を感じる?からというのもいいすぎではないように感じる。
“子孫に美田を残さず”といった偉人もいるが、やはり派手に資料に残るような買い物は、美田というよりは子孫に手痛い“ツケ”を残すことにもなりかねないので、しっかり説明できるに、生前から相続人を教育することが必要であろう。
2008年10月17日金曜日
Vol.17 事業承継税制に不安材料
平成21年度税制改正では、中小企業の事業承継にとって革命的な法案が予定されており、成立すれば今年10月から遡及適用される。その革命的な法案とは、事業の後継者を対象とした「取引相場のない株式等」に係る相続税の納税猶予制度の創設だ。
すでに、その基盤となる「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」(経営承継円滑化法)は可決され、今年10月から施行される。税制はその後付となる形だ。
この事業承継税制、簡単にいってしまえば、一定条件を満たした場合、後継者が相続または遺贈により取得した自社株式の80%に対応する相続税の納税を猶予するといいうもの。
一定条件とは、「中小企業基本法の中小企業」であること。たとえば、製造業であれば、資本金3億円以下または従業員数が300人以下。また被相続人は「会社の代表者」、「被相続人と同族関係者で発行済株式総数の50%超の株式を保有かつ同族内で筆頭株主であったこと」、さらに相続人(後継者)は、「当該会社の代表者である」「相続人と同族関係者で発行済株式総数の50%超の株式を保有かつ同族内で筆頭株主となること」となっている。
相続税法が、ほかの点で変わらない(遺産取得課税方式への見直しは除く)とすれば朗報である。
私見だが、極端にいえばすべての財産を株式化した場合最も有利(取得した自社株式の80%とはいえ限度は発行済議決株式総数の3分の2となっている)とも思えるが、兄弟姉妹間の争いや、税法の“シバリ”もなにか出てきそうで、そんなに単純にことが運ばない気がする。
2008年9月19日金曜日
Vol.16 相続税調査でまず探すのは「名義預金」
このコラムではこれまで、調査されやすい業種から始まり、告発文書あるいは関係者からのタレコミ電話を通じた一連の調査着手までの流れ、さらには、実際に相続税申告書が提出されたあと、当局部内でどのように処理されるか紹介してきた。
そこで今回は、相続税調査担当部署の基本姿勢、つまり調査に臨むにあたっての技術的な部分について教えたいと思う。
現在の国税職員の人数的な問題から、相続税調査のキャパシティとして、相続税申告書が提出された中で30%程度が調査可能な件数ということはかなり知られている。この30%をどう選んでいくかも、これまでのなかで解説してきた。では、もし調査されるとすれば、その相続人は、当局から具体的にどう調査されるのだろうか。
ひとつ言えることは、かなりの確証を持って調査に来るということだ。もちろん予告の上、紳士的に調査を進めることはあたりまえだが、ひとたび調査になったら、なんらかの問題点を指摘してくる可能性は高い。
準備調査の段階で、とくに力を入れて調べるのが、かつては、被相続人のものだったが、すでに相続人名義となっている「預金」。つまり「名義預金」の存在だ。可能な限り事前照会し、不審な預金関係はすべて洗い出す。そして、いったん臨場した場合、それら不審点を中心にして、調査内容を構成する。もちろん、周辺からの巧みな“いもづる”話法を駆使してくることは間違いない。
2008年8月15日金曜日
Vol.15 不正履歴は一生付きまとう
ここで書いていることは、主として記憶に頼っている面が強いので、相続税に関して100%正確を期す場合は、顧問税理士にでも確認していただくとありがたい。 ただし、相続税に関するエッセンスはお伝えできているものと思っている。 今回も、相続税の申告書を出した後からの話をさせてもらう。法人税ないし個人所得税の調査記録は、永久に残る場合がある(法人であれば存続期間、個人であれば生存中)。これは、元税務調査官だった国税OB税理士をはじめ、税務行政の現場にいた幾多の先輩たちがお伝えしてきていることであると思う。
つまり、法人のオーナー経営者あるいは個人事業者が悪質な不正に絡んでいる場合は、その情報が相続税調査にまで影響してくるということなのだ。 この「元税務調査官のひとりごと」のコラム掲載のスタートごろだったが、生前営んでいた法人か個人の業種によって見方が違うといった話をした。それにも関係するが、今回は、業種に関係なく、当局内部の調査記録の話をしよう。
ひとことで言えば、「不正計算」があれば一生付いてまわり、相続の時点でも、法人税や個人所得税で取りもれたであろう不正所得の一部をしつこくかぎまわられる。当局は義務とでも感じているのかもしれないが、相続税の関門は最後の砦である。“三途の川の渡し舟”を出すために、生前の行為によっては“追い銭”が必要なのかもしれない。
2008年7月18日金曜日
Vol.14 調査先の選定基準は…
相続税の申告書を提出した後の話。生前の収入や所得の状況は、被相続人の確定申告書もしくは調査官調査資料あるいは機動官開発資料、古い査察資料(役員報酬・不動産・乗用車・株式・投資信託・預貯金・保険・タックスヘイブン・愛人・宝石・時計など)によってあらかじめ把握されている。
とくに、確定申告書で財産・債務の明細が申告されているような場合は、その暦年の記録から被相続人の財産状況はおおむね推量されているものだ。したがって、被相続人自身が提出していた確定申告書などから導き出される財産状況と相続税の申告書での中身が著しく違っていた場合、当然調査対象に選定されるということになる。
中身が著しく違うとはどういう状況なのだろうか?「どこまで違えば問題か」ということは興味深い話だと思う。
税務行政とは生き物である。その時々の経済社会情勢によって変わってくる。つまり、税務署の統括官が選定する際の基準値は相当程度としかいえないのが良心的な見解だ。煙に巻くようで申し訳ないが、「受け継いだ財産」+「稼いだ所得」+「もらった財産・使った金・損した金」=「相続財産」なのであり、税務署想定値と申告上の財産が統括官の個人的許容限度以上に違えばやはり問題になる。
2008年6月13日金曜日
Vol.13 形のあるもの、形のないもの
権利とは経済的利益を一定の期間受けることを許された無体財産である。逆読みすると「利権」となり、こちらのほうは同じ経済的利益でも期間や保証のない、ある種の財産ということになろう。相続税が対象としている無体財産は両方を指すが、前者の方が著作権、特許権、実用新案権など公的に保障された権利であるのに対して、後者で対象となるものはMLM(マルチ・レベル・マーケティング)組織上あるいは保険代理店組織上など、認められた相続可能な利権のみである。
政治家の利権、個人商社の商権などは明文の規定がない場合、経済的価値とは認められない。法人組織上合併や買収などで獲得した暖簾も株式という財産を通じて財産の一部と認められることはあっても、そういった厳密な規定がなされていないような場合は財産と認識されないのである。
逆に言えば目に見える確かな形なき財産の移転は現行相続税法の範囲とするところではないので、親から子に伝える伝統芸、あるいは法人でいえば帝王学など教育投資ないしはノウハウ、人的組織など、知恵に長けた税理士などは巧妙に相続税の網をくぐり抜けさせているものなのである。
要するに現行相続税法でとらえきれる無体財産は、生前の職業などから特許庁などに照会し、問題点が発見できれば、すかさず調査に移行するということである。